2013年11月1日金曜日

「人を知るほどに好きになる」は本当だ。 

取引先様から、従業員さんやお客様向けに講演を頼まれることがある。好き勝手な話だが、次回の依頼も頂戴するので、喜んで頂いているようだ。



人は見た目で判断する

人は出会った瞬間、相手の値踏みを開始する。大抵の人は数十秒で、容姿、服装などで「あの人は感じがいい」と判断する。しかし「気に入らない」と決められたら、たまったものじゃない。

「人は見た目で判断してはいけない」と戒めるのは、人は見た目で判断するからだ。一度感じた印象は簡単には拭いきれない。概念・観念は、今までの経験と知見により、外観と物腰でその人を判断。職業や財布まで決め付けるから怖い。

因みに私自身、4年前まで90キロ超えていて、おまけにスキンヘッド。サラリーマンと思われず「怪しい奴」と思われて苦慮した覚えがある。

最初の冷静かつ批判的見方から、知り始めての変化を「熟知性の法則」、別名「自己開示の法則」として発表したのが、米国の心理学者ロバート・ザイアンスである。

「熟知性の法則」の3つの法則とは

1、人は、初めて会った人には、批判的で冷淡で攻撃的である。
2、人は、その人のことを知れば知るほど好感を持ち始める。
3、人は、その人の人間的側面を知った時、好感を持つ。

ザイアンスが『熟知性の法則』を発見した出来事を紹介したい。ニューヨークの地下鉄での事件を、皆さんも観客として読んでほしい。



ある日、地下鉄に男性と3人の子どもが乗り込んできた。お父さんらしき男と、12歳ほどの女の子、7.8歳と3歳ぐらいの男の子2人の4人連れ。地下鉄は通勤時間を過ぎ、座席は半分ほど空いていて車内は静かであった。ところが、この親子らしき4人が乗り込むや否や雰囲気は一変する。

下の男の子2人の行儀が悪く騒がしいのだ。走り回る子どもの傍らの父親らしい男は見ているだけ。お姉ちゃんらしい女の子もまるで他人事。

見かねた一人の女性が「子どもたちを静かに!」と男を咎めた。乗客全員が「そうだ!よく言った、何と非常識な親子」と思った。誰もが冷たく批判的なのは当然だろう。

咎められ事態を察した父親は、暫く沈黙し意を決したように口を開いた。「大変申し訳ありません。気が付きませんでした。…こんな話をすべきではないかもしれませんが、12歳の娘は普段は弟の面倒をよく見る子です」「入院している母親に代わって、頭が下がるほど家のことをしてくれます。どうか娘は責めないでください」父親は、静かに語り続けた。

「実は、先程入院中の妻が息を引き取りました。家族で彼女を天国に見送ることができました。6歳と3歳の息子は、久しぶりにママに会えたと喜んでいます。痛み止めのせいで眠るように息を引き取ったので『ママ、ぐっすり眠ったね』と喜んでいます。元気になると信じているようで」と父親は、はしゃぐ息子たちを見つめた。

「私は、息子の嬉しそうな姿を見たら『ママは眠ったのでなく、もうこの世にいないんだ』とは、どうしても言えません。今の彼らには理解できないかもしれません」

はしゃぐ子どもたちの声が車内に響く。

「私はこれからの事を考え塞いでいました。お恥ずかしい話ですが、息子の行動に気がつかず、すみません」父親の目から堰を切ったように大粒の涙。そして傍らの娘を抱きしめた。

「お姉ちゃんは、母親の死を理解してます。今まで気丈に振舞い、泣き言一つ言わず、家事を引き受けママの代わりをしてくれました。しかし、先程から下を向いたままです。普段は弟の面倒を良く見る娘です。彼女まで責めないでください」


親子を咎めた女性と居合わせた車両の乗客は、その時こう思ったのです。「この親子に、我々は何か出来ないだろうか」と。まさに、最初の批判的、攻撃的な感情が一転し、同情から愛情までを、この親子に抱くのである。

これが「人は、その人のことを知れば知るほど好きになり、その人の側面まで知ると好感を持ってしまう」という、ザイアンスの法則である。

未だに、通りすがりの殺傷事件が後を絶たない。自分の感情だけで攻撃する。もしその被害者が、一人息子の誕生日を祝う為、家路を急ぐお母さんと知っていたら犯行に及べるか。きっと「相手を知る」ことで、人は優しくなれるはずである。

「嫌な人」とは知らない人のこと

私達は、仕事でもプライベートでも必ず苦手と思う人がいる。どうも気が合わない。自分のことを判ってくれない。いちいち癇に障るひと人。

憎い・妬む・嫌いの前提は、相手の本質を知らない事が殆ど。表面的には知っていても、本質や真実は知らない。無論、それは相手も同じで相手と鏡のように呼応する。

そこには「優しい気持ち」は存在しない。これは「自己開示の法則」とも言うが、この本質は、自分を開示して好きになって貰うのでなく、相手を開示させて、その人を好きになるということ。すると、こちらの自己開示に耳を傾けてくれる。

マネジメント手法に「積極的傾聴」がある。深く聞き取ると、マニュアル応酬を超える。部下の成功報告を聞く時は、何処を褒めようか?と思いながら聞き、逆に失敗談なら、どこに課題があってどう対処するか、と考えながら聞く。

私は、疲れて帰宅しても、家内からその日の出来事を根掘り葉掘りと聞く。面倒くさいと思ってはいけない。そのうちTVのホームドラマより面白くなってくるから。

全ての人でなく、せめて周囲の方々は好きになりませんか?の話だ。そして、新たな出会いは意図的に相手を知り、好感を持った方が楽しい筈。

そうなればしめたもの。知人が友人となりファンへとなり、そして最後は「サポーター」へと素敵な仲間が増えていく。嫌な奴や、苦手な奴より、楽しく素敵な方の思い出だけ残したほうが、健康にも、精神的にもよっぽどいいじゃないか。

この夏を振り返りながら、以前「女性の魅力とは」をテーマで話した「ザイアンスの法則」を今一度思い返してみた。
                               
田辺 志保