2014年10月15日水曜日

無意識の行動パターンを利用するワザ。<後編>

あなたから「仕入れたい」「買いたい」と思わせる会話術。

カネボウのカリスマ販売員はお客様と親愛の距離・ベストポジションにすっと入り込めると、前回お話しした。とはいえ、初めて顔を合わせ、言葉を交わして商品を買っていただくのは容易なことではない。
「何かお探しですか?」と声をかけて「見ているだけ……」と返されたらそこで終了。また、いきなり商品の説明を始めても同様の言葉とともにお客様はその場を後にするだろう。

私は静岡の営業現場時代から、営業担当者とその傘下にある数多くの美容部員さんを預かる機会を得てきた。営業担当者は、お取引店様の売上げ拡大の提案活動をはじめ、美容部員さんの配置とその連携を深めるための労務管理が大きな仕事だ。また、美容部員さんは化粧品販売の最前線に立つ。お客様へのカウンセリング活動を通して商品を買っていただくよう働きかける。営業担当者には特段のマニュアルなどなく、基本スキル以外の説得話法、営業センス、提案力、人間力などは、個人の資質と先輩からの指導と実践で掴み取り、美容部員は教育部主催の研修会で、身だしなみや立振る舞い、話法の基本を習得していた。
いずれにしても、お取引店様から「この営業担当者から仕入れたい」、お客様から「この美容部員さんから買いたい」と言われるよう、努力の毎日だったと思う。

そうした中、静岡のメンバーは、当時、日本一の静岡営業軍団(私の風貌からか田辺組と呼ばれていたらしい)とのご評価をいただいた。軍団の言葉には、恐れを知らぬ活発な行動部隊との揶揄的な意味があったのかもしれないが、実は裏で地道に「感動体験紹介運動」を実践していた。“感動体験を伝える”勉強会である。


その都度、指名されたメンバーが最近感動したこと、本でも映画でも、身の回りに起こった出来事でも、とにかく自身が感動した話を発表して、その感動が伝わってきたかどうか、参加メンバーが評価し合うのだ。
「紹介された映画の情景が全く浮かんでこない」「その本を買って読もうとは思わない」「どこに感動したのかわからない」などと言いたい放題だが、そこにはルールを設けていた。ただ評価するだけでなく、その理由と、対策の進言をセットにすることを義務づけた。

当初、「この忙しい時にこんな事をしている場合ですか?」と部下から突き上げられた。しかし、「伝わらない話をしていては『こいつじゃダメだ』と見捨てられてしまう」「いつか絶対役に立つ……」と信じて、私は強行した。そのうち、各人に変化があらわれた。課題が見えてきたのである。

私も気づいた。不評な話は、題材もさることながら、まず「間」が悪いのだ。相手の反応をうかがう「間」がとれない。自分の言いたいことに終始して、聞かされる、聞いている側のことなどお構いなしなのだ。

やがて、発表する側は不評の原因に気づき、学習を重ねて、勉強会2年目ぐらいから、飛躍的に進歩した。相手の反応を伺う「間」が取れるようになるのだ。声のトーン、伝える時の表情なども見違えるほどで、まさに訓練の賜物。私は「してやったり!」の思いを味わった。

人は最初から好印象をもってもらえる人もあれば、そうでない人もいる。そして、誰しも得手不得手がある。初対面でも如才なく、相手の気持ちや立場などを敏感に察知して会話を始められる人もいれば、会話のきっかけをなかなかつかめないでいる人も少なくない。
しかし、相手を思う会話、セールストークは不思議なくらい「間」が生まれ、相手の心に響いて、信頼関係を築く。会話には自分の思い、考えを相手に伝え、人を動かす力があり、それは同時にワザともなる。

気持ちよく会話を進めるには、うなづいたり、相槌を打ったり、感想を述べたり、時には質問をするなどして、相手の話をていねいに聞くことだ。

上手に受けて、気持ちよく投げ返す。

朝一番、まずは「おはようございます」で始まり、当然ながら、「おはようございます」の返礼があって気持ちよく1日がスタートする。ところが、相手の顔や目を見ずに声だけ発する「壁に挨拶」や、下を向いたまま挨拶をする人がいる。以前、お取引先様から、カバンから書類を取り出しながら挨拶を返されて不愉快だった、と苦言を呈されたことがある。


「目は口ほどにものをいう」とよく言うが、話すときは相手の目を見ることだ。相手への関心を伝えるには、視線を外すことなかれ、である。視線の先は相手の目の上部を見るくらいが良い。この時大事なのは顎の角度。顎を引きぎみにして眉辺りを見るようにすると自信にあふれた姿勢になるそうだ。相手の胸元を見る方がいるが、お詫びの時は別として、目線を下げると迷いがあるように映るらしい。商談の場合は自信のない態度は禁物である。

挨拶も目線も、上手に受けて、気持ちよく投げ返し、そこから相手のいい笑顔を引き出すことができればその後のコミュニケーションもスムーズに運ぶだろう。
その先、最高のご褒美、先方からの「ありがとう」の笑顔が待っている。

田辺 志保