2015年1月15日木曜日

還暦を前におぼろげながら見えてきたこと

先日、花王時代に出会った東北の友人と「今年は、お互い還暦、60だな……」と話し込んだ。ただ、彼も私も還暦は通過点、「まだまだ」「人生これから!」との気持ちが強い。そういえば、学生時代の友人からはバンド活動を復活させたいので一緒にどう? と誘われたり、新市場獲得の為に頻繁に出かけている海外での面白話を聞かされたりしていることからも、思いはみな同じのようだ。一昔前、還暦を機に現役を引退する例も多く、還暦をシニアの入り口としていたようだが、今や人生80歳、いや90歳ともいわれる時代である。

ただし、体力、集中力をはじめ身体機能の低下は否めず、気持ちは若くても体のサビ付きを実感することがある。過信せず、若い頃とは違うと己を知り、余裕をもって今の自分に出来る「使命」を見つけたいと強く思う。そして、還暦を前に、おぼろげながらそれが見えてきたような気がしている。

柔道を通して息子とともに学び、成長する

息子が柔道を始めたことで、柔道関係の方々といろいろ話をさせていただいたり、催しに参加させていただいたりする機会が増えた。その一つ、昨年、年の瀬が迫る頃、「千葉県中学柔道強化選手」の親として、千葉県・浦安の了徳寺大学の練習を見学させていただくチャンスが廻ってきた。

その柔道場には世界チャンピオンの秋本啓之選手や世界選手権代表のヌンイラ華蓮選手の姿があった。それだけでドキドキしてきたが、さらに自分の練習ではなく、中学生の強化選手を相手に、自分が築き上げた技を惜しげもなく、手取り足取り直接指導していたから驚いた。思えば「柔道・グランドスラム東京」出場直前の大事な調整期間のはずで、二人の選手が了徳寺大所属とはいえ、信じられない光景だった。トップアスリートの後輩づくりへの情熱を肌で感じ、胸が熱くなった。親のほうが世界の頂点に立つ選手の技を目の当たりにして感極まってしまったのだから、指導を受ける息子の気持ちは言うに及ばず。

息子は秋本選手に世界トップレベルの寝技「秋本返し」を指導してもらった。緊張するやら、感動するやら、夢のようだったという。もちろん、秋本選手からすれば息子は柔道初級者。「秋本返し」の極意をそう簡単に習得できるわけがない。ただ、世界の頂点にたった選手から直接指導、教えを受けたことは息子にとってかけがえのない経験だったことは間違いなく、気持ちに火がついたように見える。



また、同行された選手強化にあたる先生方の眼差しも真剣そのものだった。秋本選手の「足抜きから寝技への移行」を食い入るように見つめ、必死にメモを取り、ビデオを回していた。
ワールドクラスの選手たちのレベルは中学生には少々難しすぎるだけに、普段指導をしてくださる先生方が世界レベル、超一級の技を噛みくだいて教えていくのだろう、と思った。本物を知ることは本物に近づく第一歩なのだと思う。

指導者として、高い評価を得ている先生たちの共通点は、子どもに応じた指導内容が一貫していてぶれないことだ。だから子どもは迷わない。自分にとっての課題と対策が、本人の腹に落ちるのだから、自信をもって一心不乱に練習できるのだ。
息子が指導を受けている、須賀道場の須賀先生、岩崎先生、廣田先生、増田先生も息子に対して「金太郎あめ」のように同じことを言い続けている。
「勇斗は、組手の遅れと、上半身の硬さが課題です。僕らはこれから何百回と言い続けます。同じことを指摘するうちに、やがて自分の課題を肌で感じて体で理解します。そうなれば、どうすべきかを求めるようになり、やるべき練習を何千回と反復してくれるのです」
「自ら、『強くなりたい』と思う子でないと、幾ら教えても変わらないんですよ。どんなに才能があろうと、所詮はやらされていると思っている子はだめです。誰だってラクしたいですから」と。

「千葉県中学生柔道強化選手」は、「強くなりたい」「学びたい」という集団である。昨年はクリスマス返上で勝浦合宿をした。朝から晩まで練習していた。



指導する先生方は休日返上で引率・指導にあたってくださった。先生方にはいつも頭が下がる。申し訳ない限りである。それだけに、親は子どもを中途半端では参加させられない。選手育成の術をもたない無芸の私は、息子と無我夢中で学び、共育を目指すこと、先生方のサポート役に徹することしかできない。

だから、裏方に回ることを「自分たちの使命」と思い、手弁当で指導くださる先生方を支援したい。同様の気持ちをもつ者が力を合わせ、指導者の方々がもっと自由に活躍できる場を広げていきたいし、挫けそうな子どもには声を枯らして応援する……、そんな空気を醸成出来ればと思っている。先生方は「親御さんの理解と協力こそが大切。ありがたい」と常に言ってくださる。

2020年の東京オリンピック。日本選手の活躍が楽しみだ

昨年もスポーツ界にさまざまなドラマが生まれた。若い力の台頭も目をひいた。テニス、卓球、体操、バドミントン、フィギュアスケート……。柔道界では、12月に行われた「柔道・グランドスラム東京」で、66キロ級の神戸の高校2年生・阿部一二三君が世界一になった。

柔道関係の方から、2020年の東京オリンピックに向けて、各種目別に「金の卵」を発掘・育成すべく全国の中学、高校生の強化選手育成費用が大幅に増額したと聞いた。
東京オリンピックは「元気な日本」「グローバル日本」を世界にアピールするチャンスでもあり、大いに結構である。2020年に向けて精一杯過ごすべきである。

と同時に、世界を経験したトップアスリートには、経験者にしかわからないことを次世代の若い選手たちに積極的に伝授していただきたい。なぜなら、その場の雰囲気を味わったことのない人間がどんなに熱く語っても、伝え、教えることができないからだ。息子が世界チャンピオンの秋本選手と直接触れ合ったことで柔道に対するモチベーションが一気に上がったように、襟のつかみ方、言葉、息づかいなど一つ一つに子どもたちの素直な心が反応するのだ。

私は「出会いは人生の宝」と信じている。もちろん、息子にもそう思ってもらいたい。そして、出会った方も同じ思いを共有できれば嬉しい。そうしたつながり、輪が広がるよう努めることが私にできることではと思う。
今、日本には柔道をはじめ、野球、テニス、バドミントン、卓球、フィギュアスケートなど、世界で活躍している選手が大勢いる。選手を支えるスタッフも充実してきている。その人たちから直接学ぶ機会、出会いが増えることを願うばかりだ。

企業は未だに目の前の商い、「金になるか?」が評価軸。しかし、単なる経済成長を考えるのではなく、次の世代にどのように引き継ぐか、次世代の果実の芽となるよう成長の種をどうまくかを考えるときがきている。オリンピックに限らず、何かにつけて「金」をすぐ欲しがるが、もっと長期的な視点が必要のように思う。
マイナー種目・分野に向けた応援、参加・協賛するなどして、長いスパンで恩恵にあずかる気持ちをもって欲しいものである。
さらには私も含め、自分にとって「有益かどうか」「損か得か」ではかる物差しを忘れ、それを超えた人生の価値を共有していきたい。
私は、近所の公園をゲートボール大会で占拠するなら、危険を理由に禁止している野球もサッカーも子どもたちに開放してはと陳情し、子どもの学芸会で親の目を意識して主役の白雪姫を10人も配するのは「いかがなものか」と発する親でもありたいと思う。

家内から「ちょっと待ってよ……」と言われそうだが、還暦を前に今以上に小うるさくなりそうだ! いや、それを目指そう!? 
やっぱり「正しく行って何人も恐れず」である。これは鐘紡の経営に長年携わった紡績王・武藤山治翁の言葉。悔やんでも始まらないが、つくづく思う。カネボウイズムは絶対に忘れてはいけない、と。
                             
昭和39(1964)年の東京オリンピックの時、私は9歳だった。オリンピックを機に街も人も様変わりし、環境は著しく変化した。あれから半世紀。2020年、ふたたび東京でオリンピックが開催される。世界に向けて円熟した日本を示せるかと期待に胸が膨らむ。日本の若い選手が活き活きと活躍する姿を見たいものだ。中でも「柔道」は外せない。

田辺 志保

2015年1月1日木曜日

新年を迎えて

謹賀新年。
本年も、全力で取り組んで参る所存です。昨年同様の変わらぬご厚情を賜り、何卒宜しくお願い申し上げます。皆様にとりましても更なる飛躍の年となりますようお祈り申し上げます。



お陰様でわが社も、穏やかに新年を迎えることができました。
私は例年、年初に、今年一年の抱負を決めて机上に貼って眺めることにしているが、今年掲げた言葉は「気力充実」。気力をみなぎらせて、やる気、元気、根気を更にパワーアップしようと考えたからだ。ただ、思い込み激しく、テンションが上がり過ぎる傾向があるだけに、周りの皆さんにご迷惑をかけないように、「短気は損気」を胸に秘めて、空回りしないよう気勢を上げていこうと思っている。

「気力」を辞書で調べると、困難や障害に負けずに物事をやり通す強い精神力。気持ちの張り、気合、とある。健康で生きていることを「気力がある」状態と捉えると、自分の行いに目的や意味を見出している限り「気力」は備わっていることになる。要は「健康一番」なのだ。

問題は、それでも「気力」が萎えてしまう時にどうするか……、である。
以前お話ししたが、トコトン落ち込んだ時には胃に食物の残留物がないという。つまり気力が萎えると空腹状態にあるのだ。「生きる」ためのエネルギーを摂取しなければ、負のスパイラルに陥り、やがて「気力ゼロ」となる。
元気がない時は、まず食う! この発想も大事だ。「辛いから食べられない」でなく「食べないから辛くなる」と思うことだ。ただし、ストレスによる過食症には気を付けること。辛いなあと思った時は、まずは水を一杯飲もう!

私にとって、今年は還暦、節目の年となる。水を飲む機会が増えるかもしれないが、健康一番、気力を充実させるためにも、病気をしないようにしたい。風邪ひとつひかないよう心がけたいと思う。当たり前のこと、手洗い・うがいの励行と、免疫力を向上させるために大いに笑っていきたいものだ。笑いが及ぼす健康効果はよく言われているが、中でも免疫力を高める効果はさまざま実証され、介護の世界などでも取り入れられている。

「笑う門には福来る」「笑って暮らすも一生、怒って暮らすも一生」である。「気力充実」のポイントは「笑い」にあるかもしれない。
溢れる気力の持ち主をめざし、笑顔を咲かせ、笑わせる使者になろう、と決めた。

田辺 志保