2025年7月4日金曜日

18と81の自分探し。

ブログ「会社員の引退」を見た友から「取締役は雇用契約の従業員でなく、会社との委任契約だから社員ではない」と指摘された。

確かに私は雇用保険も労災も勤務時間もないが、事業長兼務で定額報酬のフル勤務だから、サラリーマンを引退なのかもしれない。

実は私の会社人生の大半が正規社員でない。42歳でカネボウ静岡販売(株)代表取締役と同時に、勤続19年で退職金を清算され嘱託社員になった。20年未満では退職金も僅かで頭にきたが、次の年棒額を知り思わず納得してしまった。

早速、毎月の売上利益の確認と経費に押印するのだが、冒頭が私に係る諸費用一覧。そこに「経営指導料」の欄があり、私の報酬を経営指導料として私自身が支払いを承認するのだ。

己の仕事を自問自答させる痺れる仕組みだ。一度、大幅な未達月度に承認を許否した。すると本社役員から電話が掛かってきた。

「田邊、何かっこつけてんだ。早く押印しろ」「いや、在庫整理で大幅未達では貰えない」と断ると「お前に経営を任せた以上、目の前の実績より通期でどうか、来期は万全か。会社を中長期に考え、今何をやるかだ。その場の数字で一喜一憂するな」…ぐうの音も出ない。

「明日を描き今日を生きる」。私は来期以降の健全な販社体制を構築することを誓った。

当時カネボウは販社代表と部門長を嘱託社員にさせ、経営者を育て選抜してきた。かくして42の若造は200名の従業員を抱え、取引銀行や労組との接し方を経験。それ以降、ロービームで彷徨うとハイビーム視点を忘れる事を痛いほど学んだ。

因みに「逆流性食道炎」もその頃である。しかしこのキャリアが自己形成の根幹になった訳で、今後、こんな私の知見でも欲しいと仰る会社には精一杯伝えていければ幸いである。



10年先を考える大切さ。



さて話は変わるが、私は厚生年金確保の為、個人事業主として青色申告する。国が年金制度を見直しても、高齢化と少子化による年金受け取りの目減りと、若者の負担増の先行き不安は変わらない。

そうでなくても我々は、働けば所得税、年金にも所得税、買い物すれば消費税、住むだけで住民税、相続、贈与に蔵出し税と、そのうち生きてるだけで生息税までかけられそうだ。

政府にすれば「働けるなら稼いで納税を!」だから、雇用延長を70歳にする日も近そうだ。年配者は健康寿命を延ばす為にも働きまくるのだ。


以前、SNSで「18歳と81歳の違い」という面白い記事を発見。そもそも今日本の18歳は106万人、昨年より6万人減り過去最低。一方81歳は437万人、何と81歳は18歳の4倍。80歳以上合計で1,260万人で国民の10%に及ぶのだ。

さて18歳と81歳の違い「恋に溺れる18歳、風呂で溺れる81歳」「道路を爆走18歳、道路を逆走81歳」「心がもろい18歳、骨がもろい81歳」「何も知らない18歳、何も覚えていない81歳」と、我々は笑えるが、81歳と18歳の当事者は笑えない。


祖父母を介護する両親と次を背負う子ども。まさに「自分探しをする18歳、皆が自分を探してる81歳」が現実になる。「子ども叱るな来た道、年寄り怒るな行く道」では許容できない事態。だが高齢者も、決して老害などと言われたくないのだ。

私も81歳になる10年先を考えた。何はともあれ心身共に元気を維持し、家族に迷惑を掛けぬよう健康寿命を延ばしピンピンコロリを目指すしかない。

ウーム「脳トレと筋トレ」しか思い浮かばない。10年先がロービーム視点とは情け無い。💦






2025年6月7日土曜日

食わず嫌い王。

古希祝いに家族から「AirPods」を貰った。今までのイヤホンに比べ、本人の聴力に適応する機能や音質など、すこぶる気に入っている。

これを機にCD転送のウォークマンから、TPO別のBGM集や選曲が無尽蔵に揃う「Spotify」に変えた。もはやCDは過去の遺物になる。

若者には当たり前が、私には新鮮で面白い。CDに慣れた昭和男は「食わず嫌い」で過去の習慣を手放せないのだ。ようやくCDを捨てたら、今はレコード盤を針で聴くのが流行りという。えー昔、LP盤を大量に捨てたが「後悔 先に立たず」だ。


私は仕事上、PCやSNSを一通り使うが、年配者には苦手な人が多い。増える引退者と高齢者達は、進化する文明の利器から徐々に取り残される。

私の友人で、現役なのに未だガラケーでSNS無関心の還暦オヤジがいる。迷惑な話だが本人はどこ吹く風。私の知る限り「食わず嫌い王」トップだが、これ職場内では老害だろうな。

確かにPCとスマホの進化は早い。30年前、文書作成はOASYSだったが、静岡転勤2年を経て本社に戻ると1人1台のPC業務に大転換。ところが最近の学生はレポート・パワポをスマホで作成、今やPCが苦手という新人生が出現するほどだ。

しかしPC・スマホの習熟と仕事の成果は別物だ。語学力だけでは海外で通用しないように、折衝力と営業力がないとビジネスは成就しないのだ。


本末転倒、急がば回れ!



昔カネボウは、語学堪能者の海外赴任はパッとせず、ならばと国内で営業力のある奴を選抜、英国に1年間ホームステイさせ英語学校に通わせるという荒技を強行。選抜者には過酷な日々を強いたが不思議と話せるようになるのだ。

2年後、彼らを海外に送り込んだら大成功。私の部下も英国留学させ、最初は泣き言ばかりだったが、24時間英語漬けの効果は抜群だった。

「語学力ある奴に営業」でなく「営業力ある奴に語学」の発想は、まさに本末転倒から、急がば回れで、長期的人材育成と組織人事の成功例だ。


当時、英国留学する部下からメールが届いた。辛いの後に「小説、漫画、それと大好物の魚肉ソーセージが欲しい」と切実なメール。私は早速、スーパーで魚肉ソーセージを買い込み、段ボールの書籍の下に隠し発送してやった。

「ビールと魚肉で一人乾杯した夜を忘れない」と言われた。秋田支店長から突然、英国留学した彼は、その後20年ほど海外を渡り歩き、最後は国際部本部長として大活躍した。一昨年引退したが、彼は未だ海外で生活している。

その彼から学んだこと『食わず嫌いはダメ、先ずは食ってみろ!』人生は挑戦である。








2025年5月18日日曜日

48年目の節目で。

先月70歳の古希を迎えた。昔、70歳は半ボケ老人だったが、いざ自分がなるとピンとこない。しかし老害の仲間入りは間違いない。

実は以前から「会社員の節目は70の古希」と決めていたから6月の取締役任期満了を以て、ジモスを退社、長かった会社員を引退する事にした。

現在、親会社ナック関係会社の最高齢役員としては次世代へのスムースな交代のため、昨夏には二事業部長を後任に譲り新体制を進めてきた。


1978年に鐘紡入社、カネボウ花王、フュージョン、ジモスと会社員48年目。その間カネボウでは躍進と崩壊。FUSIONでは株式上場、JIMOSでブランド上市と様々な感動や苦難もあったが、概ね芯食った仕事が出来たのではと思っている。

それにしても70歳までのフル勤務は感慨深い。これは勤めた私より、受け入れた各会社の「懐の深さ」と「我慢強さ」に感謝するばかりだ。

今後は組織に属さず、依頼された会社の顧問やコンサル業務で週2~3日ほど働こうと思うが、それより問題は週休4~5日の過ごし方である。


変化は摩擦を生み、摩擦は進歩を生む。


実は数年前に退社を考えたが「SINN PURET」があり継続を決意。EC以外の取扱店は百貨店、専門店、バラエティと380店舗。bestコスメ大賞も84冠と認知も売上も好調である。

内田理央やAlexandrosとのコラボ、香りで生理前後の体調改善を脳波立証したフェミテックなど、独特の世界観「SINN PURUTE」の成長は気になるが、後任に託したら見守るだけだ。


やはり組織交代は早期人事に限る。組織は替えるから変わる。何事も変化に多少の摩擦はつきものだが、その摩擦が進歩を生むのだ。

会社員は名刺で成長する一方で、評価者パワーを己の力と勘違いした我儘上司も出現する。上長とは後任を育て次に託す役回りであり、立場の固執は組織の後退に繋がると心得たい。


古希になって頑張る事。


老後が自分事となり、年金事務所と市役所を尋ねたら、住民税、健康保険、介護保険など到底年金だけでは暮らせない事を痛感。70歳まで厚生年金は払っても、今までの支給停止分は消滅する不条理など、今更ながら老後の厳しさを知った。

今後は個人事業主として確定申告するつもりだ。先ず生活の安定、そして身体を鍛えながら、如何に楽しむかという難関が最後に待っていた。

さぁ70オヤジの生活は如何に。女優・樹木希林は『年齢を脱ぎ 冒険を着る』と言ったが、さて私の冒険リストは、旅行、ライブ、サックス、友と再会、そして合間に仕事なら最高だが、その冒険もやってみなけりゃ分からない。


まぁ幾ら冒険しても、いずれ私も「人生の潮時」が訪れるわけで、その日が来るまで「好々爺」で居続けたいものだ。そう目下の最大の冒険は「笑顔一杯、仏の田邊」である。笑。

先ず、今までの亭主関白ぶりを反省し、この引退の節目で幕を下ろすことにした。💦








2025年4月30日水曜日

まだ見ぬリスク?

 弊社にも新入社員が入ってきた。この時期は慣れないスーツの新人が街を闊歩する。将来は会社を背負うぐらいの勢いで入社して欲しいが、どうもそうではなさそうだ。

昨年の新卒は冒険しない「さとり世代」と言われたが、今年卒の就職意識調査は志望の1位が安定企業49.9%、次に給料が良い23.6%で過去最多。逆に敬遠するのはノルマのある会社38.9%、転勤が多い会社30.3%と、これも過去最多らしい。

ノルマも転勤もなく安定した給料の良い会社。そんな所なら私も入りたい。どこかで何かを妥協し、それを乗り越えてこその仕事の筈だ。

サイトを纏めると『まだ見ぬリスクを避け、体力気力を極力減らし多くのリターン(給料)を得たい』それには自らで機会を取るより機会を貰う受け身が安全だと。そもそも出世は面倒だし安全な選択肢が望めない会社なら簡単に諦める。

因みに今年は「モームリ」など退職代行が早く、入社数日での退職希望がザラらしい。彼らは「まだ見ぬリスク」を避け転職を繰り返すのか。

「ふざけるな」と思わず唸った私だが、何故?と彼らの背景を今一度考え直してみた。

確かにコロナ禍の学生は、変化が激しく不確かで正解が分からずに卒業し「貰い手意識」が強い。加えて価値観の多様化が進み、SNSやネットでキャリアの比較や選択肢が無数に提示されすぎて、選択のリスクを恐れているのだ。

直近の新卒が特殊な環境で育ったツケは大きい。採用した企業側も彼らを将来の要にする為、社員教育や組織人事を見直す必要に迫られる。


昭和オヤジは時代錯誤。


彼らを「軟弱で舐めてる」と批判するだけなら、昔を自慢する昭和オヤジだ。もはや「俺の若い頃」は通用しない。相手は「昔話など知るか、結局自慢か」と間違いなく思っている。

ならばどうするか。それは懇切丁寧に、自ら行動するメリットと方法を伝え、自律したキャリアの描き方を教えるしかない。「経験から学ぶ喜び」を彼らに与えるのだ。これは我慢と時間を要するから互いに簡単に諦めてはダメだ。


一つ明確なのは、若手も年輩も人間関係で感じる幸せは同じであること。欲求5段階の生理的欲求、安全、社会的欲求を経て社会人になると「承認欲求」が最も重要なカギになる。

人間関係の幸せは・褒められる・愛される・必要とされる・役に立っているの欲求で、これが満たされた人は、やる気や成果が格段に上がる。つまり上司は部下の承認欲求をどう満たすかで、これは仕事以外の関係性でも同じだ。

勿論、己にも承認欲求はあるが、職階が上がるほど承認する側に傾注するのだ。誰でも「貴方が頼り」と言われたら意気に感ずるのだ。

先輩諸氏は、仕事に夢も冒険心も持てない彼らを不憫と思い、夢と希望を与える為、彼らの体験一つ一つに関心を持ち認めてあげることだ。


さて、入社2年目の息子は「明日のエース」と煽てられ、やる気満々で奮闘中。ただ金欠病と多忙は相変わらずで、彼は承認欲求より食欲と睡眠欲とは、どうしたもんか。💦

「腹が減っては戦は出来ぬ」、もはや私が出来るのは食品などの物資の後方支援だけである。




2025年4月13日日曜日

300人と30人の宝。

いつも「出会いは人生の宝」と言っているが、いったい生涯に出合う人は何人だろうか。


一般的に人生で何らかの接点を持つのは3万人。学校や仕事で近い関係になる人が3千人。親しく会話ができる300人。友達と呼べるのが30人で、本当の親友は3人ほどと言われる。

あくまで通説だから個人差はある。特に生涯接点3万人は曖昧だが「人生3万日/82年」と言われるから1日1人と出会う勘定になる。SNSで面識のない人を除けば妥当かもしれない。

因みに、有名人で3万人以上の接点と3千人以上の関係をお持ちの人でも、親しく会話できる300人と心許す30人に大きな差はないようだ。


300人と30人は人生の宝。


重松清の短編集「その日の前に」は、愛する人の死別と向き合う人々が再生する話だが、やはり心残りを払拭したい大切な人は厳選されるのだ。

亡き父の話だが、父は我々の反対を押し切って癌の延命治療を停止、会いたい人の訪問行脚を強行した。7年前に母を失い自分の最後には夫婦で世話になった方を訪問と決めていたようで、身体が動く2か月に30人のリストから面談会食を実行。

結果的には体調悪化で、その半数しか会えなかったが、父は充実の時間に大満足していた

やはり歳と共に疎遠と新規が入れ替わり、増減しても、最後に会えるのは30人程だろう。父を見て最後は大切な人を巡るのも悪くないと思った。

そして己の死を看取るのは、身内と友人など10名程か。これが葬式だと遺族の知人や仕事関係の「渡世の義理」が働くから列席者は増えるが、皆が本当に悼んでいるかは別の話だ。


しかし人生の終焉話は暗くなるので、未来に向けた新しい命の話に転じるが、2024年の出生数が72万人。19年が90万人で22年で80万人を割り、僅か2年後は72万人だ。この末恐ろしい少子化は国の想定より15年も早いらしい。

これは葬式どころでない。その原因は「未結婚」の増加と出産しない「少母化」だというが、このままでは日本の存亡に関わる危機である。

今、政治家が票集めの103万の壁やガソリン代補填などの刹那的対策を語るより、抜本的な子どもの環境対策だ。2026年予定の出産無償化の前倒しと、大学までの授業料と医療費の全額免除など、大胆に取り組まないと少母化は止まらない。


当たり前だが、人は「一人で生まれ一人で死んでいく」。そして出産は笑顔で迎えられ死別は涙で見送るもの。これが悲しみの出産と喜びの死別では最悪だ。そうならぬよう嫌な奴を好きになるかダメなら排除してでも、親しく話す300人と信頼の30名と幸せな時間を過ごしたいものである。

一度の人生「全ての出会いは人生の宝」と育んできた人々が、自分にとって最高の300名と30名の仲間が「己の最強の応援団」になってくれる。

同時に自分の仲間30名に対して己が最強の「応援団長」になることも忘れてはいけないぞ。










2025年3月24日月曜日

幻の美白キティ。

新聞の定期購読をやめて6年だが、ネットで何とかなるものだ。新聞の定期率は2008年89%から58%と30%減少、その大半は5割減の全国紙だ。

カネボウ崩壊の2003年前後、私は全国4紙を定期購読し連日記事を確認してから出社。2005年の粉飾報道は取引先とお客様の対応に振り回され、当時は新聞記事が恐怖だった。

花王に買収された2006年は取引先の反発が強く、企業風土とブランドイメージ、取引条件など両社があまりに違うと言われた。

花王は当初カネボウ体制を大きく変えず、様子見をしていたが、2013年「美白問題」が勃発。新美白成分「ロドデノール」が「白斑」を引き起こし、自主回収へと突き進む。これを機に花王主導の体制が加速されていくことになる。

回収は美白NO.1「ブランシール」と、既存ブランドの美白ラインの8ブランド計54製品に及び、45万個の回収に全社員が追われたのである。

この莫大な損失は、花王傘下でなければ乗り切れなかったろう。社内外でカネボウ社員は辛かったが、それ以上に辛いのは白斑のお客様であり、全国にある美白相談室は、未だ和解できない方々と相対で対応させて頂いている。


幻となる「美白キティ」


当時、私は花王出向から戻り、カネボウOEM会社の代表であった。幸いウチはロドデノール未使用で安堵していたが、美白問題は我々に予期せぬ事態を巻き起こすことになる。

実は丁度その頃、M自動車がキャラクターの「キティ限定車」を発売する予定で、購入されたオーナー様に向け記念品として「キティのフレグランス」を作りたいとM自動車から制作依頼があり、その開発の真っ最中だった。

「キティの香り」はゼロからの開発で、1年以上前からキティ作者、M自動車、弊社開発部で試作を繰り返し、ようやく納得の香りができ覆面調査を実施。この香りのキャラクターは?の質問に大半が「キティ」と回答し遂に処方が決定した。

私は、最終の香り処方・容器包材を確認し、いよいよ生産に入る直前の事である。突然、M自動車の担当役員が私に会いたいという。

処方のお礼かと思いきや、訪れた役員から「今までの費用は全てお支払いするから、この話、無かったことにして欲しい」と言われた。

えっ、耳を疑う「なにゆえに」と私。「実は弊社の役員会議で、美白問題で自主回収のカネボウさんが開発した商品を使うのは問題がある、今回は見送ろう」となったというのだ。

「いやいや、これは香水です。美白とは何の関係もありません」私は納得できない。

よく知る役員だけに「御社もリコールでご苦労されましたよね。全て否定は早急過ぎませんか」と突っ込む。役員は「そうです、ウチも色々ありました。だからこそ、リコールした弊社が自主回収の御社を使うのはマズい。これが取締役会の総意なのです」と頭を下げる。沈黙が続く部屋に、開発スタッフの無念の嗚咽が聞こえる。

これは覆せないと判断した私は「支払いは結構ですから弊社で商品化させて欲しい。私はこれを世に出したい」とお願いした。すると「待ってください。これはウチの依頼ですから弊社の製品として次の機会で必ず使います」と返された。

私は無言、長い沈黙。このままでは平行線と感じた役員から「トドメの一発」が放たれた。

「田邊社長、これは言わずにおこうと思いましたが、私個人の話をさせて下さい。実は私の母親が北九州に居るのですが、ブランシールの長年の愛用者で、今回ひどい白斑になりました。返品はしましたが、お世話になるカネボウさんに余分な迷惑をかけぬよう、被害届けは出していません」

…私は役員の言葉に息を飲む。彼は続ける。

「こんな私の気持ちをどうかお汲みとり頂き、この話、何も言わず納得して下さい」と先ほど以上に深く頭を下げられた。「……」。

私と開発部はその場で立ち上がり「多大なるご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございません」…我々は心の底からお詫びした。もはやこれ以上の押し問答など出来るわけがない。

九州本部から返品のみで被害届けのない役員の母親の事実報告を受け、ここに「キティの香り」は完全に幻の商品となったのである。


あれから12年。あの「行き場のない悔しさと無念」は生涯忘れる事はない。元はと言えば、我々が蒔いた種。どうする事も出来ないのだ。

私は社員に「世に出なくても開発の経験は必ず役に立つ。嘆くのは止めて明日から頑張ろう」と伝えながら、坂村真民の言葉を噛み締めた。

『 咲くも無心 散るも無心 花は嘆かず 今を生きる 』 坂村真民【今を生きる】











2025年3月5日水曜日

髪は女の命だけ?

 昨年のことだが、突然、娘が驚くほど髪をバッサり切った。「どうしたんだ」と尋ねると「別に、伸び過ぎて重いから」と淡々と言う。

釈然としない私は「あいつ、何かあったのか」と家内に聞くと「重くて、短くしたかったみたい」と淡々と返答。どうも私の悪い癖で、行動に至った原因を追求したくなる。

重い?そもそも髪で頭が重いことが分からない。重量を調べたらロングヘアーで250g。ピンとこない。そうだ帽子は何gか「ツバ付きキャップ」が約60gとある。つまり帽子4つ分の重さ。そうか、そりゃ帽子を4つも被れば確かに重い。第一アタマがウザすぎる。しかし帽子2つ分で切ってもよい筈で、このタイミングが分からない。

実は、あとから判明したのだが、彼女が髪を切ったのは、他に意外な理由があったのだ。


31cm以上の壁。



髪を切り、ひと月ほど経った頃、娘が2枚のレターを見せてくれた。宛先と発信元が「Japan Hair Donation & Charity」となっている。ヘアドネーション&チャリティ?よく分からず詳しく聞く。

実はこの「NPO法人ジャーダック JHD&C」とはヘアドネーション・髪の毛の寄付を受け付ける一機関で、人々に寄付して貰った髪を使い、脱毛症、小児がん、ストレスで頭髪に悩む子ども個々にカスタマイズし「医療用ウイッグ」として無償提供している法人団体なのだ。


娘は、多毛症の少年がヘアドネーションする動画を見て、この活動を知り、自分もやろうと髪を切らずに備えていたらしい。実はウイッグには、31㎝以上の長さを要し、ブリーチや毛染めで傷み過ぎた髪は使用出来ないのだ。

娘は2年も美容室に行かず、ボブ加工の40㎝を待ち、いよいよ美容室に行き寄付する旨を伝えると、既にヘアドネーションをご存知で、髪の長さと痛みを確認し、乾燥状態で送る為に、洗髪前にカットして束ねてくれた。

こうして娘は無事に寄付できた。2枚のレターは、送付証明と先方サイトから抽出した「サンキューカード」だった。娘の髪が、日本のどこかで悩む子の役に立てば素晴らしい。

この活動が目指すのは『髪がない事を個性として受け入れる社会』だが、未だ髪の毛がない子への偏見は根強い。そしてヘアドネーション自体を知らない人も多く、その資金も潤沢でなくウイッグも一気に提供できない状況らしい。


私はこの活動を知らなかった。昔から「髪は女の命」というが髪型は容姿にも影響する。今、有名美容師のショートヘアのイメチェン動画が好評だが、どうせ切るなら、その髪が「悩む子の命」にもなる事もぜひ知って欲しいのだ。

実はこの話「ブログで拡散して」と娘からリクエスト。私は「了解。皆さんにシェアお願いする。ただ俺は寄付無理」と笑いながら、又髪を伸ばし始めた娘が少し誇らくなった。ぜひ拡散を。🙇


■NPO法人 ジャーダック JHD&C
https://www.jhdac.org/hair.html




2025年2月15日土曜日

「海苔」のゆくえ。

海苔の入札に奔走する「丸山海苔店」社長から、不作で悩む海苔業界の話を聞いて驚いた。

因みに丸山海苔店さんは創業安政元年170年の老舗で、お茶の専門店「寿月堂」と合わせ、築地、豊洲、歌舞伎座店など関東で店舗展開される企業で、そのブランド力は国内に留まらずフランスのパリ店は現地でも有名な名店である。


さて海苔の話だが、実はこの3年、赤潮と温暖化による海苔の不作が深刻なのだ。海苔の価格は3年前の約3倍であり、今年初の入札も前年130%以上の価格で取引されていると聞く。

丸山さんは入札での上質な海苔以上に、廉価な海苔の質、量の確保を案ずる。しかし海苔の全てがこんな高騰では再値上げは必至である。

これは小売りから、ふりかけ、煎餅と、あらゆる業種に昨年以上に影響する。加えて「米」の高騰は寿司とおにぎり業界の死活問題で、スーパーは総菜の再考だ。このまま海苔の食習慣まで変化したら業界は大変なことだ。

既におにぎり大手のコンビニの中には、海苔の縮小や韓国産を使い始めた。今、韓国、中国は自国の海苔を「日本仕様」に生産を替え販売攻勢を仕掛けている。日本の海苔のつもりで買ったら、実は韓国産なんて事もあり得る話だ。


海苔は種付け海苔網を育み、冬期から収穫を始め、次に冷凍網で何回か収穫する。実は最初の1番摘みが最も美味いと言われ、年初の入札からの高騰は、次の収穫がプランクトン量や海水温から不作の予想が反映されてのことらしい。

海苔生産は有明など九州産が大半で、次の兵庫、宮城、愛知も健闘するが高騰は止められない。更に先日は九州に寒波襲来があり、もはや「海苔は有明」など言ってられないのだ。

残り数回の入札も、質も量も価格も都度変化する。業者は先様の等級の要望を見込み、どこで、どれだけ、幾らの札値で押さえられるか、それをどう商いするかヒリヒリする思いだ。不謹慎だが、まるで賭場を巡る博打うちのようで、この入札行脚は私まで痺れてしまう。


日本の食生活が変わる。


実は海苔以上に漁獲量が深刻だ。海洋環境、乱獲、養殖遅れの日本の漁獲量は30年前の三分の一に激減。何とこの10年の減少は凄まじく、北海道のサンマは4.7万㌧→1万㌧、富山の寒ブリは4.7万㌧→1.1万㌧、岩手の鮭は壊滅的だ。

いつまでも産地とブランドに拘わると、そのうち当たり前の食材すら食卓から姿を消してしまう。一方、TV局は、評判の食事処や旬の食材特集など安易なPR番組ばかりを流す。先ずは、こんなPR番組に振り回されないことだ。

食材の入手困難は、我々に食生活の見直しを迫る。米の高騰は味噌の元「米麹」を直撃し「白米と味噌汁に海苔と焼魚」の和朝食はもはや贅沢品。かといって洋食の「パンとハムエッグと珈琲」も小麦と珈琲豆の値上がりが止まらない。

こんな状況で我々が今やるべきは、①食材の無駄をなくす習慣化(フードロス)②買い物上手になる事(産地より流通量)③違う食材を利用する事(調理の工夫)の再徹底である。

食品ロス470万㌧の贅沢日本も避けては通れない。と綴る私自身が、大間の鮪や北陸のブリ、広島の牡蛎に魅せられるのはどうしたもんか。

ここは、次世代の若者の未来と、己のダイエットの為に「食」の価値観を変えるしかない。

但し、お気に入りの丸山海苔店の「芽茶」と「佐賀のはしり」は別格だ。これはダイエットとは無縁と勝手に解釈する我儘翁である。💦

■丸山海苔店

https://www.maruyamanori.com/