企業を取り巻く危機は自然災害だけでなく、不祥事発生の信用失墜、情報の漏洩や大規模システム障害、製品欠陥や偽装の賠償、労働環境、内部告発などキリがない。
フュージョンは情報漏洩防止に特に気を使う。危機管理体制とリスク管理上、機密データを扱うチームはガラス部屋で仕切り、社員でも簡単に入れない。ISMS受審もその一つだ。
危機は必ず連鎖する
以前の会社の危機経験から「危機は連鎖する」を前提の管理体制の必要性を痛感した。「粉飾」「役員逮捕」「上場廃止」「分割統合」「買収」の連鎖は、想定をはるかに超えていた。マスコミの報道合戦の渦中は、幹部の捜査の対応、取引先様への説明責任、社員への伝達・応対法の検討など緊急会議の連続で、不眠不休でことに当たった。
経済面報道の段階は、当時の三角ビル本社への取材攻勢だったが、某TVの有名司会者の昼のワイドショーで「粉飾の悪しき会社」と紹介された翌日から事態は一変した。
化粧品のお客様たちが反応したのである。全国の販売会社や馴染みのお店や化粧品コーナーに、クレームや真偽を問いただしに来店されるのだ。現場は大混乱に陥る。
店頭の美容部員への「嘘つき会社の商品は買わない」の声に彼女たちは泣いた。本社は「陳謝の心で接客を!」と指示していたから余計に辛かったに違いない。正直、言いたいことは山ほどある。現場はひたすら愛用者拡大に邁進してきただけだ。しかしそれは「言い訳」反論と映ればパッシングになりかねない。「黙して語らず」の悲しい日々であった。
しかし、そのうち信頼関係の深いお客様やお取引様から、逆に励まされるようになってきた。「頑張ってね。経営の問題でしょ。応援するよ」これには、どれだけ勇気と元気を頂戴したかわからない。感謝の気持ちで何度頭を下げ、涙ぐんだことだろう。
「売られる会社」と「買う会社」の分かれ道
明治の鐘紡紡績・武藤総裁の「正しく行って何人も恐れず」の教えは、鐘紡の「愛と正義の人道主義」の根本精神として引き継がれた。しかし110年の時を経て、各事業部の壁、上意下達の体質、繊維の業績悪化、売上至上主義などで「大切な精神」が忘れ去られた。
リスク管理徹底の前提は、全社員が「正しく行う」倫理観と、モノ言う勇気と、牽制し合う風土を醸成することが重要だ。奇しくも、この化粧品事業を買収した会社に「王道を歩む」という精神がある。同じ価値観だが、道を踏み外し迷走とモラル崩壊の末に「売られる」側と「買う」側の差になったのも事実である。
今は「王道を歩む」親会社との一体化で、残すべき伝統と精神を活かしながら、夢と正義感に溢れた若者たちで、見事に復活・成長していることは記しておきたい。
会社人として、忠誠心と当事者意識は肝要だ。しかし指示待ちだけの「社畜」はいけない。いいなり社員は「会社の常識は世間でも常識か?」の判断力と当事者意識が欠如する。
「可怪しい?」と感じたら「正しく行って何人も恐れず」を貫き通すだけである。
今は懐かしき思い出 |